ズボン

ズボン(トラウザーズ、パンツ)
ビクトリア時代のイギリスで仕立てられたスーツのトラウザーズ
ジーンズ
パンツをはいた女性たち
スキーウェアのパンツ

ズボン(洋袴[注釈 1])は、衣服ボトムスの一種で、2本に分かれた筒に片脚ずつを入れて穿く形のもの。アメリカ英語ではパンツ: pants)と言い[1]、日本でも若い世代は主にこう呼ぶ。他にイギリス英語ではトラウザーズ(: trousers[1]フランス語ではパンタロン(: pantalon)といい[2]、文脈によっては日本でもトラウザーズやパンタロンと呼ばれることがある[注釈 2]。なお「ズボン」は日本風の呼称であり、語源ははっきりしない(→#「ズボン」の語源)。

概説

ボトムスの一種つまり下半身に着用する衣類であり、2本の筒にそれぞれ脚を通して穿くものであり、その中でも日本人から見て主に欧米からもたらされたものと感じられているものをズボンと呼んでいる。[注釈 3]

種類

使用目的、布地の種類、脚部の長さなどで分類された、さまざまな種類のものがある。ビジネスマンのスーツとして組み合わせるパンツは「スーツパンツ」という。一方、デニム生地で作られたものはジーンズといい、チノクロスという布で作られたものはチノパンという。もともと労働用に着用されていたものはワークパンツといいカーゴパンツジーンズなどがそれに当たるが、現在ではファッションウェアや気軽な日常着として着用されている。長さが半分ほどのものを「ハーフパンツ[3]」(半ズボン)という。かなり多種類あるので、「種類」の節で列挙する。→#種類

呼び方

近年のアメリカ英語では「パンツ」と言う。近年のアメリカ英語の「パンツ」は基本的に下着ではなく、日本で言うズボンのことである。アメリカ英語で下着のほうは「アンダーウェア」と言って済ませ、両者は区別されている。[1]

日本で漢字を当てる場合は「洋袴」など4〜5種類あり定まっていない。日本では昭和時代はもっぱら「ズボン」と呼んでいて、例えば「子供用ズボン」「パジャマのズボン」「スウェットズボン」「半ズボン」などと使った[注釈 4]が、平成生まれなど、若い世代ほどアメリカ英語を基準にして、日本風の「ズボン」という呼び方は避けて、「パンツ」と呼ぶ人の割合が増えており、各種類を「ワークパンツ」「スウェットパンツ[4]」「ハーフパンツ」「ショートパンツ[5]」などと、ほとんどを「パンツ」という語と組み合わせて呼ぶ。つまり世代間で呼び方に大きな差が生じている。

ズボンとともに使う服飾品
サスペンダー

布地の質、また身体サイズと仕上がりサイズの差にもよるが、伸びやすい生地で作ってある場合や、身体よりも大きめのサイズの場合は、着用中にずり落ちるのを防止するための策が必要となることも多い。ウェストのくびれの部分の周囲にやベルトを通しその長さを固定してずり落ちないようにする方法や、サスペンダーで肩から吊る方法などがある。伸びない生地でできていて身体にぴったりと密着するサイズのものを着用する場合は、また最近のストレッチジーンズなどを着用する場合でも、それ自体でしっかりと保持され、紐・ベルト・サスペンダーは不要となる場合がある[注釈 5]

歴史

ズボンが登場する以前

ズボンの位置づけが理解できるように、まずはズボンが登場する以前の下半身用衣類から説明する。 人類は採集や狩猟をして生きていた時代が長いが、狩猟で捕獲した動物の解体する際に得られる毛皮を洗浄して下半身に巻くようにしてまとい、その後に一部の動物を家畜化してもその使い方を続け、その後におそらくメソポタミアで家畜の羊のウールを刈って繊維を利用することを始め、最初はフェルトの形で腰の周囲にひとつの筒になるように(現在でいうスカートのような形で)使い、次にフェルトではなく繊維を紡いで織って毛織物をつくるようになってもやはりその毛織物を腰の周囲に巻くようにして着用したようである。(今から9000年ほど前などと言われる時期に)農業を始める人々が登場したが、彼らは麻や亜麻の繊維を紡いで布を織り、それを下半身の周囲にひとつの筒状の衣類として着用した。ここまで下半身用の衣類の形状は、一本の筒であった。

ズボンの登場
ドイツ・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州のThorsberg沼で発見された4世紀のズボン
フランスにおける初期のズボン-ボワイイ作のサン・キュロット(労働者)

世界最古のズボンは、中国タリム盆地の墳墓から見つかった3,300年前のもので、遊牧民が馬に騎乗する際に着用していたものと考えられている[6]。同様のズボンは、イラン人スキタイ人(アケメネス朝ペルシア人も含む)のようなユーラシア大陸の放牧民が着用し、後にハンガリー人オスマン人によって近代ヨーロッパに伝達されることになる。

古代中国では騎兵だけが着用していた。紀元前307年に趙の武霊王が、北方の遊牧民族の習慣をまねする形で乗馬に適したズボン式の服装を初めて取り入れた。

日本列島では、紆余曲折があったようである。縄文時代では(すべてではないにしても)左右2つの筒に分かれた衣服が着用されていたこともあると考えられている。一方、弥生時代にはひとつ筒のものが着用されていたと考えられている。古墳時代、3世紀ころから下半身用には左右に分かれたゆったりとした筒状の「はかま」(褌)を着用し膝の下あたりを「あゆい」(足結)という名の紐で縛って絞るように着用していたことが、日本書紀古事記などの文献や埴輪による物証で分かっており[7]、時代を下ると左右に分かれた「はかま」からは「あゆい」(足結)が消え、さらに時代を下り武家社会では「直垂」(ひたたれ)と呼ばれるようになったが、これらは日本では日本のものと分類し、基本的にはズボンと対比される存在である。

さまざまズボン。19世紀のフランスのラルース大辞典に掲載されたパンタロンの図。

古代からヨーロッパの文化に歴史上の要所で紹介されたが、用いるのは貴族階級に限られ、一般人にまで普及したのは16世紀以降の近世からである。

ズボンの英名であるTrousersという単語は中世アイルランドのtriubhas(体にぴったりとしたショートパンツ)から来たゲール語を起源としている。

男性のズボン

英語でTrousersと複数形なのは、もともと15世紀に男性たちが着用していた、片脚ごとに着用するホース(hose:中世貴族が着ていたタイツ)がその起源で、それを2つ着用していたからである。ホースは作成が容易で、上部にあるポイントと呼ばれるダブレット(Doublet)に紐で固定しやすかったが、時を経るにつれ2つのホースは結合されていった。最初は後ろが結合され、表側も結合されていったが、衛生的な機能のために大きな開放部がまだ残されていた。元々はダブレットがほぼ膝まで届く長さとなっており、陰部を効果的に覆い隠すことができたが、流行が変化してダブレットが短くなり、男性は生殖器をコッドピース(codpiece)で覆う必要が出てきた。

16世紀末になるとコッドピースはホースと一体化していた。この筒は現在では通常ブリーチ(breeches)と呼んでおり、だいたい膝までの長さがあり、フライフロント(比翼)やフォールフロントといった開閉機能を有していた。

フランスの男性はフランス革命当時、たとえ上流階級の出であったとしても、それまでの上流階級の膝丈のブリーチに代えて、労働者階級の衣服を着るようになった。足首まであるズボン(フランス語はパンタロン)、あるいは、ニッカーボッカーのような膝丈ほどの長さのキュロットなどであった。

このスタイルは19世紀初期にイングランドへと伝わった。伝えたのはジョージ・ブライアン・ブランメルと推測されている。19世紀中頃までファッションストリートの流行服としてブリーチに取って代わった。ブリーチは若い学生によりプラスフォアーズ(plus-fours)や運動着とするためのニッカーズ(knickers)として1930年代を生き延びた。

水兵は世界中のファッションとしてのズボンを普及させる役割を担ったと推測される。17世紀から18世紀にかけて、水兵はガリガスキンズ(galligaskins)と呼ばれるだぶだぶのズボンを着用していた。水兵はまたデニムで作られたズボンであるジーンズを最初に着用した人々でもあった。これらはがっしりとしていて頑丈だったため、19世紀後半にアメリカ西部でさらに一般的になった。

女性のズボン

ウィガンの炭鉱で働く女性

20世紀後半になるまでズボンは女性のファッションアイテムにならなかったが、100年前には屋外作業用として男性のズボンをサイズを直して着用し始めた。

ウィガンのピットブローガールズ(pit brow girls)は危険な炭鉱での仕事のためにズボンを着用し、それがヴィクトリア朝の社会を憤慨させた。彼女たちはズボンの上にスカートを着用し、それをめくりあげてウエストで固定した。

19世紀アメリカ西部の牧場で働く女性もまた乗馬のためにズボンを着用し、また20世紀初期には女性飛行士などの女性もよくズボンを着用していた。女優のマレーネ・ディートリヒ(Marlene Dietrich)とキャサリン・ヘプバーン(Katharine Hepburn)は1930年代からズボンをはいた格好で写真をとり、ズボンが女性にも受け入れられる一助となった。第二次世界大戦中には女性が工場で働いて戦争のために男性の仕事を行うときに、その作業内容によりズボンを着用していた。そして戦後になるとガーデニングやビーチなどのレジャーや娯楽のためのカジュアルウェアとして容認されるようになった。

種類

ズボンの構造

スラックス、ジーンズ、カーゴパンツなどのズボンには、共通の構造がある。

シルエット

普通型
流行によって細くなったり太くなったりするが、あまり変化はない。
テーパード
裾口に向かって、先細りになっている。
スリム・スラックス
  • スキニー
テーパードを細くしたもの。
パイプド・ステム
煙突のように、上から下まで同じ太さのもの。
フレア
膝まではぴったりしており、膝から裾に向かって広がっているもの。
丈の長いブーツが下に履けるもの。
裾の広がりがブーツカットよりも大きいもの。膝から下がベルのように広がっている。
セーラー・パンツ
ヒップの下から裾に向かって広がったもの。
オックスフォード・バックス(バギーパンツ
極端に太いシルエット。

ウエストバンド

セパレート・ウエストバンド(スプリットウエストバンド)
腰帯が身頃(みごろ)と別になっている仕様のパンツ。腰帯にはベルト通しが付く。ベルトを用いる。
ベルトレススラックス(カリフォルニア・ウエストバンド、ハリウッドウエストバンド、ワンピースウエストバンド)
腰帯と身頃が一体になっている仕様のパンツ。サスペンダーを用いる。アジャスターベルトという金具が着いていて、ウェストサイズが調整できる。礼服に多いスタイル。1個から2個のボタンで腰帯と身頃を閉める。

タック

タックは、腰回りの前側にあるひだ(プリーツ)。ヒップと(もも)周りに余裕をもたせる。

タックが多いほど太くなり、クッションを長くする必要がある。

ノータック
タックのないもの。ノークッションとハーフクッション向き。
ワンタック
タックが1本あるもの。ハーフクッションとワンクッション向き。
ツータック
タックが2本あるもの。ワンクッション向き。
インタック
内倒しのタック。
アウトタック
外倒しのタック。

前立て

コッドピース」を参照

前開きズボンの前立ての留め具には、ボタンとファスナーの2通りがある。

  • ボタン式
正装では、ボタンを用いる。
フロントの布を止めるボタン式を broadfall ( fallfront )と呼ぶ[8]

ズボンの前立てが開いたままのことを、俗に「社会の窓が開いている」と言った[9]。英語では"open fly"と呼ぶ。

脇ポケット

バーティカル・スリット・ポケット
脇経線を利用したもの、正装にふさわしい。型くずれを起こしにくい。
ホリゾンタル・スリット・ポケット
前脇を横にカットしたもの、正装にふさわしい。
フォワード・セット・ポケット
ポケット口の上端を脇より前に寄せたもの。ポケット口が斜めになり、カジュアルなズボンに用いられる。
ウォッチポケット(フォブ・ポケット)
フォブは時計隠しの意味。懐中時計やコインを収納するためのポケット。

後ろポケット

後ろポケットは、ボタン付きのほうが型くずれを起こしにくい。

スリット・ポケット
切れ目が入ったポケット。礼服に用いられる改まった仕様。
フラップ・ポケット
蓋付きのポケット。スーツに用いられる。
アコーディオン・ポケット
膨らんだ蓋付きのポケット。カジュアルなズボンに用いられる。
パッチド・ポケット
貼付け式のポケット。カジュアルなズボンに用いられる。

モーニング・カット(アングルド・ボトム)
前を高く、後ろを低く仕立てたもの(靴にかかるのを防ぐため)。シングルより改まったもの。
カフレス(シングル)
裾に折返しのないもの。シングルのほうが、ダブルよりも正式。
ターンナップ(ダブル)
裾口を長く折り曲げて、ダブルにしてあるもの。ダブルの裾口の折返しは、4〜5cm位が目安(身長が178cm未満の人は4〜4.5cmくらいで、178cm以上の人は5cmくらい)。
カット・オフ
裾口を切り離したままにしているもの。ジーンズなど。
レース・アップ
作業用として紐でしばっていたのが、のちに飾りとなったもの。

股上の深さ

股上は、前側の股から腰までの長さ。股上が大きいズボンを,「股上が深い」という。

レギュラー
ウエストにベルトを締めるとき、もっとも身体に合った位置。
ハイ・ライザー
股上が深い。サスペンダー用。チョッキを用いないと、ベルトの上でズボンが余るのでよくない。
ヒップハングローライズ
腰骨のところにベルトがかかり、股上が浅い。

裾丈の長さ

下に行くほどスラックスが長くなる。クッション(裾と靴の甲との当たり)が短いほど、スラックスを細く、タックを少なくする。 スラックスの裾は踵から1〜2cmの上あたりであり、必ず靴を履いた状態で測る。

ノークッション
スラックスの裾が靴の甲に当たらない長さ。 立っているときは臑(すね)が見えないが、座ったときに見えるおそれがある。ノータック向き
ハーフクッション
スラックスの裾が甲にわずかに当たる長さ。 ノータックとワンタック向き。
ワンクッション
スラックスの裾が靴の甲にしっかりと当たる長さ。ワンタックとツータック向き。


「ズボン」の語源

「ズボン」という語の語源は、はっきり分かっていない。下に挙げる説がありはするものの、正確な由来は分かっていない[10]

  • フランス語で「ペチコート」の意味の「jupon」から来ている」とする説 (だがペチコートは形が全然異なり、おまけに女性用の下着なので、この説には難があるとされる)
  • 穿く際にする擬音「ズボン」から名称ができたという説

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c 英語で何と言う? 外出用パンツと下着用パンツ。
  2. ^ [1]
  3. ^ [2]
  4. ^ [3]
  5. ^ [4]
  6. ^ “タリム盆地で世界最古のパンツ発見、3300年前の遊牧民族が乗馬で着用か―中国”. レコードチャイナ (レコードチャイナ). (2014年6月5日). https://www.recordchina.co.jp/b89205-s0-c70-d0000.html 2014年6月6日閲覧。 
  7. ^ 民俗資料館「
  8. ^ Beckett, Jesse (2021年12月20日). “Why Do US Navy Sailors Have 13-Button Pants?” (英語). warhistoryonline. 2024年1月13日閲覧。
  9. ^ なんで「社会の窓」って言うの? 今は聞かれなくなった死語の由来. マイナビニュース (2014年2月3日) 2017年12月10日閲覧。
  10. ^ 佐久間淳一『はじめてみよう言語学』研究社、2007年、188頁。 
  1. ^ 「洋袴」以外にも「股袴」「下袴」などいくつもの漢字が使われた。
  2. ^ ファッション業界では、フランスのファッションがそれなりの影響力を持っており、フランスのファッションショーに関する日本語の記事や、フランス系のファッションを特集したファッション雑誌の記事などでは、特に断りもなく(パンタロンはズボンを指すフランス語だとの説明も無く)いきなり「パンタロン」と呼ばれていることがある。
  3. ^ 日本でもすでに古墳時代に、2本の筒に片脚づつ通す衣類はあったが、それは「はかま」と呼ばれたり、時代が下って武家社会では「ひたたれ」と呼ばれたので、日本のものを指す時は「はかま」や「ひたたれ」と呼び、ズボンと言う場合は、明治以降に主に欧米から(あるいは 欧米 + 諸外国から)日本に入ってきたものを漠然と指している。
  4. ^ 戦前生まれの人や昭和1桁生まれの人など、年配者ほど、どっぷりと日本語に浸かって育ち、かつての敵国だったアメリカの英語に対して拒否感を持っていて最近のアメリカ英語の傾向を学ばず。その結果、今でも「パンツ」を下着だと思い込んでいる人が多い。現在、アメリカ英語では下半身に着る下着はたいていは「アンダーウェア」(下着)と言って済ませる。
  5. ^ どちらも、ウェストのくびれたスリムな体型の人は、サイズをしっかり選べば、紐・ベルト・サスペンダー抜きで着用してもずり落ちない。

関連項目

ウィキメディア・コモンズには、ズボンに関連するメディアがあります。
ウィクショナリーに関連の辞書項目があります。
ズボン
トップス
ズボン
スカート
ドレス
背広服制服ユニフォーム
アウターウェア
外套
その他
下着ランジェリー
上下
水着
寝巻
帽子
手袋(グローブ)
靴下ホーザリー
履物
装身具
服装規定
関連項目
カテゴリ Category:服飾・Category:衣類
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